李商隠 「秋日晩思」

桐槿日零落  桐槿 日びに零落し
雨余方寂寥  雨余 方に寂寥たり
枕寒荘蝶去  枕は寒くして 荘蝶去り
窓冷胤螢銷  窓は冷くして 胤螢銷(き)ゆ
取適琴将酒  適を取る 琴と酒
忘名牧与樵  名を忘る 牧と樵
平生有遊旧  平生 遊旧有りしも
一一在烟霄  一一 烟霄に在り

一葉揺落して秋を知る桐の樹、一朝のさかえなる花をつける槿の樹が、一日一日と葉を落としてゆく秋の夕暮れ。雨の降りやんだあとにあるのはただ寂寥。
うたたねの床は枕もひえびえとして、むかし夢に荘子が見て楽しんだという春の蝶は消えうせ、目醒めては書見をしようとしてみるのだが、窓はつめたく、晋の世の勤勉の士、車胤が明かりにした螢も飛ばない。
官職を離れたこの田舎のわび住まい。ままよ、琴と酒で心を養って、うさを晴らし、自適の生活を我がものにしよう。羊を牧する村童、山で樵りする野夫にまじって、俗世間のこと、とりわけ名誉心から超脱しようと私は思う。
ひごろ交わっていた旧知の友達は、ひとりびとり、めぐまれて栄達し、いま雲上人となってはいるのだが。(高橋和巳訳
 

高橋和巳の翻訳はいじろうという気にはなれませんね。

参考文献
 李商隠 高橋和巳コレクション 河出文庫

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